大分地方裁判所 昭和44年(ワ)117号 判決 1969年9月08日
主文
被告は原告にたいし、別紙清算金支払表表示の第三回乃至第八回の清算金計三〇万〇五七六円及び右各回の清算金にたいする各支払期日の翌日以降支払済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は原告にたいし、別紙清算金支払表表示の第三回乃至第八回の清算金計金三〇万〇五七六円及び右各回の清算金にたいする右表表示の各支払日以降支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決、ならびに、担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
一 被告は、大分都市計画事業復興土地区画整理事業の施行者であり、原告は、右整理事業区域内に別紙土地目録記載の二筆の土地を所有していたところ、これにつき換地処分を受け、右換地処分は昭和三九年一〇月七日確定したので、被告にたいし、金四四万五〇三三円の清算金交付請求権を取得したが、被告は、これの支払いについて、別紙清算金支払表表示のとおり、所定の利子を附し、一一回に分割して交付する旨定めた。
二 而して、被告は、右第一及び第二回分の支払いは為したが、既に支払期の到来した第三回乃至第八回分の清算金の支払いをしないので、原告は、被告に対し、右金員及び各回分にたいする各支払日以降支払済に至るまで年五分の割合に依る遅延損害金の支払いを求めて本訴に及ぶ。
と述べ、被告の抗弁にたいし、
一 被告主張の一の抗弁事実は認めるが、その法律上の主張は争う。土地区画整理事業の換地処分における清算金交付請求権は、公告の翌日において確定し、その時点における換地の所有者に帰属するもので、以後換地の所有権の移転に随伴するものではない。土地区画整理法第一二九条が適用されるのは、換地処分確定までであつて、確定後はその適用の余地がない。
二 被告主張の二の抗弁は争う。尤も、被告が、主張の日時に、主張の金員を大分地方法務局に供託したことは認めるが、供託の要件を満たしていないので、免責の効果を生じない。
と述べた。
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因一及び二の事実を総べて認め、抗弁として、
一 原告は、原告主張の換地処分に依りその所有権を取得した別紙土地目録記載の換地を、昭和四一年三月四日訴外ナシヨナル商事株式会社に売渡し、その旨の登記をも了したので、土地区画整理法第一二九条に依り、以後の清算金交付請求権は右会社が取得し、原告はこれを喪失したものである。
二 若し、仮りに、原告に、清算金交付請求権ありとするも、被告は、大分地方法務局に、過失なくして債権者を確知することができない場合に該当するので、昭和四三年五月二三日、昭和四三年度金第二二四号を以て、第三回乃至第六回の清算金合計金二〇万八八六八円を、同年七月二三日、同局同年度金第一二七九号を以て、第七回の清算金四万六四六〇円を、昭和四四年二月一八日、第八回分の清算金四万五二四八円を、何れも供託したので、被告は、原告にたいする支払いを免れた。
と述べた。
立証(省略)
理由
原告主張の請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。そうすると、被告は、原告にたいし、別紙清算金支払表表示の第三回乃至第八回の各清算金及び各清算金にたいする各支払日の翌日以降土地区画整理法施行令第六一条所定の利率と同率の年六分の割合に依る遅延損害金を支払うべき義務を負担したものということができる。
そこで、被告主張の抗弁一について検討する。原告がその主張の換地処分に依り所有権を取得した別紙目録記載の換地を、昭和四一年三月四日訴外ナシヨナル商事株式会社に売渡し、その旨の登記をも了したことは当事者間に争いがない。而して、被告は、換地の所有権の原告より右訴外会社への移転に伴い、土地区画整理法第一二九条に依り、法律上当然に、原告の被告にたいする清算金交付請求権も右訴外会社に移転したと主張する。土地区画整理法一二九条の法意は、土地区画整理事業の円滑明確な遂行の為め、施行中の土地についての権利の移転があつた場合に、当事者たる地位を承継せしめて、整理施行の障礙を除去するにある。換地処分の確定により、土地の所有関係は確定するのであつて、後には、整理施行者と従前の土地の所有者間の清算関係が残存するにすぎないから、右の時点以後においては、換地の所有権の移転に伴い、当事者たる地位を承継せしむべき合理的根拠は誠に薄弱である。又一方、清算金の交付の実質は損失補償金の支払いであり、即ち、本件についていえば、原告が換地処分確定により、従前の土地より価格の低い換地を取得することになるので、原告自身が、換地の所有権以外において、被告にたいして、取得した損失補償請求権が、本件清算金交付請求権であり、換地に固着した属地的な権利ではないから、換地の所有権の移転に随伴すべき理由はない。即ち、原告が、換地の処分の確定(昭和三九年一〇月七日確定したことは当事者間に争いがない)後である昭和四一年三月四日に訴外ナシヨナル商事株式会社に換地を売渡したからといつて、法律上当然に、原告の被告にたいする清算金交付請求権が訴外会社に移転することはあり得ない。若し、被告の主張するが如くであれば、従前の土地より価格の低い土地が換地として交付せられたために、その差額が清算金として交付せられるのに、その価格の低い土地を売払えば、清算金を受くる権利まで失うことになり、全く道理に合わないことになる。以上、被告の抗弁一は理由がない。
次に、被告の予備的抗弁二について検討を加える。
被告が、その主張の日時に、主張の金員を、大分地方法務局に供託したことは当事者間に争いがない。扨て、土地区画整理法第一二九条の解釈に関しては、学説、判例が区々に分れているので(判例は、清算金交付請求権は換地の所有権に随伴するとし、多くの学説はこれに反対する。)、清算金交付義務者たる被告が、過失なくして債権者を確保することができない場合に該当するということができ、民法四九四条後段の供託原因の存することは明らかであるが、供託とは、弁済者が弁済の目的物を債権者のために、供託所に寄託して債務を免れる制度であり、債権者をして、本来の債務と同一内容の債権を取得させるような供託をしなければ債務消滅の効果は生じない。従つて、支払日を徒過して供託する場合には、法定の遅延損害金をもあわせて供託しなければならないのに、被告は、支払日を徒過しながら、何等遅延損害金を付することなく清算金のみの供託を為したに止まるから、被告の前示供託により、清算金支払債務消滅の効果は生じない。以上、被告の予備的抗弁二も理由がない。
そうすると、被告は原告にたいし、別紙清算金支払表表示の第三回乃至第八回の各清算金及び各清算金にたいする各支払日の翌日以降土地区画整理法施行令第六一条所定の利率である年六分の割合に依る遅延損害金を支払うべき義務があるといわねばならない。従つて、原告の本訴請求は、右の限度で、又請求の範囲内で(年五分の遅延損害金請求)理由があるから正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却すべきである。訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条を適用し、仮執行の宣言は相当でないから、その申立を却下し、主文のとおり判決する。
別紙
<省略>
別紙
土地目録
第一
従前の土地
大分市大字大分字角ノ木二五八二番の五
一 宅地 一四〇、二九平方メートル(四二坪四四)
換地の表示
大分市金池町一丁目二番
一 宅地 九九、一七平方メートル(三〇坪)
第二
従前の土地
大分市大字大分字角ノ木二五八二番の一
一 宅地 三六五、四二平方メートル(一一〇坪五四)
換地の表示
大分市金池町一丁目三番
一 宅地 二五五、一四平方メートル(七七坪一八)